GISってなんだっけと、今一度、問い直す。

なんとか春の学会シーズンも終わり、そのまま年度初めのバタバタが始まっております。実は今年はちょっと大きな海外ネタが控えているため、7月までにいろいろ仕事に目処をつけておきたいところなので、いっそうバタバタしております。

今年の春学会はいろいろな人と会い、いろいろな話をして、とても収穫が大きかったです。なかでも今木さんにお会いできたのと、若い人たちといろいろ話せたのは、とても刺激的でした。

そんなこんなで、自問自答してるのがGISって結局何なんだということだったりします。

今、漠然と思っていることは、GIS、というか地理学ってのは、「空間をどうモデル化するか」を考えるのがシゴトなんじゃないのかな、ということ。ESRI社さんのサイトには

「まず地理(=空間)をコンピュータが認識できるデジタルデータに変換する必要があります。しかし、空間は様々な地物(道路や川、火災や生物生息域など空間内の物や事象)から構成されています。その中から自分の目的に必要な地物のみを抽出し、コンピュータ上にデジタルデータとして再現する必要があります。この過程をモデル化(抽象化)といいます。」

と書いてあります。
これは、間違いではないけど、十分でもないと思う。「モデル化」とは「必要な地物のみを抽出し、コンピュータ上にデジタルデータとして再現する」ことではなく、より広範にいうならば「現象の抽象化」そのものがモデル化といえるだろう。例えば、自分の身近なところでいうならば、炭素や窒素の循環の推定、気候変動などの予測が「現象の抽象化」とその活用だと思う。そこでは、事象の有無や、事象感の関係性が抽象化され、数式によって記述される。
じゃあ、地図とかGISとかはどうなのか。紙媒体の地図に注目すれば、何を表現するか、どの様に表現するかについて取捨選択している時点でモデル化だといえる。いうなれば、地理的現象をどの様にモデル化するかが、地理学のそもそもの目的の一つだと思う。
地理学のちょっとした悲劇は、学問分野として「モデル化」が一定の理解を得る前に、「基礎的地理現象のモデル化=地図化」が確立してしまったために、それとは別物ととらえられている、もしくは関係者自身が別物と思っているところにあるのかなとも感じている。


それはさておき。
GISっていうのは、地理的現象を紙媒体の地図という古典的モデル化から解き放たれ、さらに広範な様々な形でのモデル化を可能とする契機だったと思う。そこには、どういった現象をどの様にモデルとして表現するのが最適化という方法論的なアプローチと、モデルの間の共通性を一般化する帰納法的アプローチがあったと思う。しかし、その切っ掛けをつかみ損ねた地理学は、良くも悪くも地誌学的アプローチから脱却できていないと感じている。
以前、職場の後輩から「GISって、研究として行き詰まってますよね」といわれたことがあるが、その原因もこの古い「地図」というモデルに縛られすぎている部分がある。これは、地物の有無と特性を表すのにおいて、ラスターとベクターという二大空間モデルがあまりにも偉大すぎて、そこから自由になれないからだと思われる*1。まぁ、それで十分なら、それはそれでいいんだけどね。


じゃあ、今やっている研究で、ラスタとベクタで十分なのかといえば、そうじゃない。
例えば土地利用変化を研究していれば、スリバーとよばれる元データのもつ誤差に基因する"ゴミ"の問題がある。これは、ラスタであれベクタであれ、発生する問題である。この誤差をキャンセルするには、分析結果を処理するという方法もあるだろうけど、そもそもそういうミスが起きないようなGISデータモデルを作るという考え方もあるだろう。また、既存のGISモデルデータのなかであっても、大容量のデータを効率的に扱うためのアルゴリズムの開発というのも、一つの研究としてあり得るだろう。
そこで必要とされるのは、既存のGISソフトウェアを使いこなす技術ではなく、どういうモデルを作ればいいのかという考え方であり、それをどの様に実装するかということである。


これからのGIS、というかGISを使った研究者に求められているのは、ただ単にソフトウェアを使いこなせるスキルではなく、自分がしたい仕事をするとき、最適な空間モデルを考えし、それを実装できる能力だろう。
それを実現するときに、プロプライエタリなソフトウェアをFOSS4Gのどちらがいいのかは、また別の話になるので、それはまたの機会に・・・。

*1:ということで、GeoHexという空間モデリングは、実は大きな可能性を秘めていると思っている